約 1,939,359 件
https://w.atwiki.jp/ewwiki/pages/182.html
2ch検証室 このページでは、2ch本スレにおいて有志の方が独自に検証した事をまとめたページです。 どの内容でも検証方法に触れているので、何かを検証したいと思ったときはこのページを参考にするとよいかと思います。 ※ページ作者は本スレ82回転目の時点で作製したので、それ以前のスレの検証についてはページが見れないため判りません。 ご了承下さい。 2ch検証室非表示パラメータに関する検証 アビリティに関する検証 非表示パラメータに関する検証 シーカーの対マスター遠距離攻撃に対しての回避率の検証 マスターの遠距離攻撃に対するユニットへのダメージに関する検証 マスターの遠距離攻撃の射程に関する検証 攻撃範囲拡大効果に関する検証 ユニットタイプ・Lv別対召喚士攻撃に関する検証 防御力 ユニット同士のぶつかり合い Ver2.09時代の2剣防御力 防御力増減効果に関する検証 クリティカル率 DAとクリティカル率についての検証 関連クリティカル補正に関する検証 移動速度 移動速度に関する検証 アビリティに関する検証 ダメージアビリティに関する検証 防御力増減アビリティに関する検証 防御力増減効果に関する検証 (防御力の項のものと同じ)
https://w.atwiki.jp/madoqa/pages/61.html
スナッフ(嗅ぎタバコ)どう? 前半 後半 http //life7.2ch.net/test/read.cgi/cigaret/1002047306/ スナッフ(嗅ぎ煙草)どうですか?その2 全部 http //life7.2ch.net/test/read.cgi/cigaret/1078500076/ スナッフ(嗅ぎ煙草)どうでしょうか?その3前半 後半 http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/smoking/1107775831/ 現行スレ スナッフ(嗅ぎ煙草)について語り合うスレPart4 http //hobby10.2ch.net/test/read.cgi/smoking/1169432850/
https://w.atwiki.jp/steelchronicle/pages/438.html
スティールクロニクル VICTROOPERS 150STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 149STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 148STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 147STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 146STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 145STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 144STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 143STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 142STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 141STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 140STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 139STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 138STE [転載禁止]©2ch.net スティールクロニクル VICTROOPERS 137STE スティールクロニクル VICTROOPERS 136STE スティールクロニクル VICTROOPERS 135STE スティールクロニクル VICTROOPERS 134STE スティールクロニクル VICTROOPERS 133STE スティールクロニクル VICTROOPERS 132STE スティールクロニクル VICTROOPERS 131STE スティールクロニクル VICTROOPERS 130STE スティールクロニクル VICTROOPERS 129STE スティールクロニクル VICTROOPERS 128STE スティールクロニクル VICTROOPERS 127STE スティールクロニクル VICTROOPERS 126STE スティールクロニクル VICTROOPERS 125STE スティールクロニクル VICTROOPERS 124TE スティールクロニクル VICTROOPERS 123STE スティールクロニクル SteelChronicle 122STE スティールクロニクル SteelChronicle 73STE スティールクロニクル SteelChronicle 72STE スティールクロニクル SteelChronicle 71STE スティールクロニクル SteelChronicle 70STE スティールクロニクル SteelChronicle 69STE スティールクロニクル SteelChronicle 68STE スティールクロニクル SteelChronicle 67STE スティールクロニクル SteelChronicle 66STE スティールクロニクル SteelChronicle 65STE スティールクロニクル SteelChronicle 64STE スティールクロニクル SteelChronicle 63STE スティールクロニクル SteelChronicle 62STE スティールクロニクル SteelChronicle 61STE スティールクロニクル SteelChronicle 60STE スティールクロニクル SteelChronicle 59STE スティールクロニクル SteelChronicle 58STE スティールクロニクル SteelChronicle 57STE スティールクロニクル SteelChronicle 56STE スティールクロニクル SteelChronicle 55STE スティールクロニクル SteelChronicle 54STE スティールクロニクル SteelChronicle 53STE スティールクロニクル SteelChronicle 52STE スティールクロニクル SteelChronicle 51STE スティールクロニクル SteelChronicle 50STE スティールクロニクル SteelChronicle 49STE スティールクロニクル SteelChronicle 48STE スティールクロニクル SteelChronicle 47STE スティールクロニクル SteelChronicle 46STE スティールクロニクル SteelChronicle 45STE スティールクロニクル SteelChronicle 44STE スティールクロニクル SteelChronicle 43STE スティールクロニクル SteelChronicle 42STE スティールクロニクル SteelChronicle 41STE スティールクロニクル SteelChronicle 40STE スティールクロニクル SteelChronicle 39STE スティールクロニクル SteelChronicle 38STE スティールクロニクル SteelChronicle 37STE スティールクロニクル SteelChronicle 36STE スティールクロニクル SteelChronicle 35STE スティールクロニクル SteelChronicle 34STE スティールクロニクル SteelChronicle 33STE スティールクロニクル SteelChronicle 32STE スティールクロニクル SteelChronicle 31STE スティールクロニクル SteelChronicle 30STE スティールクロニクル SteelChronicle 29STE スティールクロニクル SteelChronicle 28STE スティールクロニクル SteelChronicle 27STE スティールクロニクル SteelChronicle 26STE スティールクロニクル SteelChronicle 25STE スティールクロニクル SteelChronicle 24STE スティールクロニクル SteelChronicle 23STE スティールクロニクル SteelChronicle 22STE スティールクロニクル SteelChronicle 21STE スティールクロニクル SteelChronicle 20STE スティールクロニクル SteelChronicle 19STE スティールクロニクル SteelChronicle 18STE スティールクロニクル SteelChronicle 17STE スティールクロニクル SteelChronicle 16STE スティールクロニクル SteelChronicle 15STE スティールクロニクル SteelChronicle 14STE スティールクロニクル SteelChronicle 13STE スティールクロニクル SteelChronicle 12STE スティールクロニクル SteelChronicle 11STE スティールクロニクル SteelChronicle 10STE スティールクロニクル SteelChronicle 9STE スティールクロニクル SteelChronicle 8STE スティールクロニクル SteelChronicle 7STE スティールクロニクル SteelChronicle 6STE スティールクロニクル SteelChronicle 5STE スティールクロニクル SteelChronicle 4STE スティールクロニクル SteelChronicle 3STE スティールクロニクル SteelChronicle 2STE スティールクロニクル SteelChronicle 1STE
https://w.atwiki.jp/cerberus2ch/pages/296.html
2chテンプレ(スレNo.と前スレのURLの修正を忘れずに!) *************************************************************************** 聖戦ケルベロスについて語るスレです 950を踏んだ人は次スレを立ててください 次スレ立てる人は宣言してから 前スレ 【GREE】聖戦ケルベロス187戦目 http //anago.2ch.net/test/read.cgi/sns/1367292929/ ◆関連スレ 【GREE】聖戦ケルベロス 初心者質問スレ9 ハラマセヨー http //anago.2ch.net/test/read.cgi/sns/1367894339/ 聖戦ケルベロス ヲチスレ6戦目 http //awabi.2ch.net/test/read.cgi/net/1366067922/ 聖戦ケルベロスのパラディンを愛でる http //anago.2ch.net/test/read.cgi/sns/1329644757/ ◆関連サイト 【攻略】聖戦ケルベロス【GREE】 @黒WIKI (※凍結中) http //www14.atwiki.jp/holywarcerberus 攻略ケルベロスGREE攻略wiki (元々のwiki) http //www45.atwiki.jp/seisenkouryaku/ @臨時 http //www52.atwiki.jp/cerberus2ch/ ***************************************************************************
https://w.atwiki.jp/kuroneko_2ch/pages/819.html
茹だるような暑さの中、軒下に吊るした風鈴の音が耳に心地よい、そんな真夏の昼下がり。 「ふ~、食った食った。ごちそうさん」 俺は皿一杯に盛られていた昼食のそうめんを平らげ、満腹感に一息ついたところだ。 「はい、お粗末さまっ♪」 軽やかにそう答えたのは、キャミソールにホットパンツ姿、その上から可愛らしいエプロンを身に付けた美少女。 空いたお皿を重ねる仕草に、二本のお下げ髪がふわふわと揺れる。 歳相応に育った女の子らしい体躯だが、色香よりはまだ健康的な印象が先に来るような、笑顔の眩しい女の子。 それは――“15歳になった日向ちゃん”の姿だった。 ――と言っても、ここは数年後の未来ってわけじゃない。 細かい事情は省くが、ここは16歳の黒猫と、15歳の日向、14歳の珠希ちゃんが存在する世界。 まあ、俗に言う〝平行世界(パラレルワールド)〟ってやつだ。 更には、ここでは俺はその三姉妹の「義理の兄貴」ということになっていたりする。 以上、前作の説明終わり。 まあそんなわけで、今は夏休みの真っ只中。 黒猫と珠希ちゃんは午前中からバイトに出掛けていて、家には俺と日向の二人だけ。 長期出張になっている両親から生活費は送られてきているのだが、兄妹4人を養うのはそれでも結構大変で。 黒猫と珠希ちゃんはアルバイトで家計を助けているってわけだ。親孝行な娘たちだよな、大したもんだ。 何でその二人だけかと言えば、俺と日向は今年受験なので、進学するまでは学業優先でバイトは免除ってことらしい。 「片付けなら俺がやるぜ? 昼飯作ってもらったしな」 「ヘーキだよこのくらい。それに、作ったって言ったって、あたしじゃこんな簡単なものしかできないしさ」 てきぱきとお皿を流しに運ぶ日向だが、何処となく申し訳なさそうな口振りだったりする。 と言うのも、両親が長期不在なため、当面の家事は兄妹で当番制。 料理に関しては基本黒猫がメインだが、日向や珠希ちゃんも週に1~2回は当番が回ってくるのだ。 そんな中、料理は大筋で何でもこなすが、メニューが和食寄りな黒猫と。 それに対するように、珠希ちゃんのほうは洋食のレパートリーを増やしつつある。 ……ホント、黒猫を器用と言うなら、珠希ちゃんは多才と言うか。やたらスペック高いんだよなぁ。 一方の日向は、今のところそれほど凝った料理は作れない。 性格が割と大雑把なせいか、あまり手の込んだレシピは不得手のようだった。 俺にしてみれば、立派に食えるモンが作れるだけ十分大したもんだと思うが……。 だがどうやら日向はそのことを少し気にしているらしい。 「まぁそう言うなって。旨いモン食わしてもらった礼だ」 「え……、お、美味しかった?」 「おう」 俺のその言葉に、日向は頬を赤らめてもじもじしている。 よく分からないが、やけに嬉しそうだ。 別にお世辞を言ったつもりは無いんだがな……実際旨かったし。 「お、お礼って言うならさ。片付けはいいから、後でちょっと……お願いがあったり……」 「ん、何だ?」 「その……、べ、勉強……見てほしいんだケド……」 「勉強?」 何だ、そんなことか。 思えば11歳のこいつも、よく宿題を教えてーってせがんできたっけ。 それを今更「お願い」とか、何を気兼ねしてるんだか。 「あっ、でも……キョウ兄ぃも自分の勉強あるし、忙しかったら別にっ……」 「アホか」 俺は、わたわたと手を振る日向の横に並び、その頭をくしゃっと撫でる。 「にゃっ?」 「お前が遠慮なんかする柄かっての。んなもん、お礼と言わずにいつでも見てやるって」 「ほ、ホントっ?」 「ああ。それ終わったらちゃぶ台のとこに勉強道具持って来いよ」 「……うんっ!」 ぱあっと明るい笑顔になって、元気良く返事をする日向。 こいつ、“黒猫”の妹なのにどこか“犬っぽい”ところがあるんだよな。 こうやって構ってやると、反応が素直というか、すぐ表情に出るというか。 尻尾が付いてたらさぞぱたぱたと振られていそうだ。 やっぱり日向はこうやって笑っていたほうがこいつらしい。 ま、たまには兄貴らしく、妹の面倒を見てやるとしますかね。 ☆ 後片付けを済ませ、日向が自分の部屋から教科書やらノートやらをお茶の間のちゃぶ台へ運んでくる。 何でわざわざここで勉強するのかというと。 ――昭和の香りを色濃く残すここ五更家には、当然クーラーなんてものがあるわけもなく。 冷房器具は茶の間にある扇風機ひとつだけだからだ。 まあ、元々俺もそれ程クーラーに頼ってたわけじゃないし、扇風機ありゃ上等だ。 逆にそっちのほうが集中できる位だな。 「にゅふ、キョウ兄ぃに勉強見てもらうなんて、スゴイ久しぶりっ」 「そうだっけか?」 割と良く宿題を手伝わされている気がするが……って、そりゃ“日向ちゃん”のほうか。 この歳ともなるとちゃんと一人で頑張ってたのかね。感心感心。 「さて、何からやるか」 「うーん……、じゃあ数学からにしよっかな」 教科書を広げ、ぺらぺらとページを捲る。 おおぅ、ちゃんと中3の教科書だぜ。いや、この世界じゃ当たり前なんだけどね。 こうして改めて目の当たりにすると、その事実を実感するというか。 こいつももう受験生なんだよなぁ……。 ん? 受験といえば。 「そういやお前、高校どこ受けんの?」 ふと頭に浮かんだ質問を投げかけてみると。 「……え、えっと……、…………キョウ兄ぃと同じとこ……」 日向は一寸口籠もった後、少しだけ言い辛そうに答えた。 「弁展? ……自分で言うのも何だが、あそこ結構偏差値高いだろ。お前そんなに頭良かったっけ?」 うん、我ながら失礼な台詞だとは思う。 でも11歳のこいつは、夏休みの宿題を最後の三日間で泣きながらやるような、お世辞にも勤勉とは言えない子だったはず。 黒猫もよくそれで頭を悩ませていたっけなぁ……。 それとも、こっちの世界じゃ割と賢い子だったりするのか? 「う、うるさいなっ。……だからちょっとガンバってるんじゃん」 ちょっと剥れて、拗ねたような返事を返す日向だった。 ……なるほど、どうやら頑張らないとヤバい程度には元のままのようだ。ちょっと安心したぜ。 安心というのも語弊があるが、あんまりイメージが変わっても困るしな。キャラ崩壊になりかねん。今更という気もするが。 まあ、何にせよ目標を持つのはいいことだと思う。 『目標を高く掲げ、自分自身が納得できるまで、それに向かって全力を尽くす』 ――お前の姉ちゃんも、そうだったからな。 「ふむ。それじゃまあ、その頑張りを見せてもらうとするか」 「任せてっ! ……っと、チョットだけ待ってね」 俺の言葉を一旦遮り、日向は教科書の山の中から朱色の小さなケースを取り出す。 その蓋を開け、その中に納められていたある代物を取り出し、それを自らの両目に翳した。 それは――人類の叡智が生み出した、至高の装具。 その名を、『眼鏡』――! 「……め……ッ、……眼鏡っ娘……だと……!?」 「ん? あれ、キョウ兄ぃの前でかけたことなかったっけ」 「お……お前、いつから……?」 いつから、俺が眼鏡っ娘萌えだと知っていた……ッ!? 「最近だよ? ガンバりすぎちゃったせいか、少し視力が落ちちゃって……。でも、勉強するときだけだよ、かけるの」 「そ、そうか。そういうことか……ちょっと焦ったぜ」 「んにゃ? なんでアセるの?」 「いや、こっちの話だ。気にするな」 一瞬、俺の嗜好を突いた精神攻撃かと思ったが、どうやら天然ものらしい。 この反応だと、俺の眼鏡属性はこいつには知られてはいないようだ。 ほっと胸を撫で下ろす。知らないならそれに越したことはない。 兄として、あまり妹たちに弱みを握られるのは芳しくないからな。 「ホントはコンタクトにしたかったんだけどさー。 キョウ兄ぃのことだから、どーせあたしが眼鏡かけると『地味だ』とか言うだろうし」 「いや! 眼鏡でいいッ! 眼鏡最高!!」 思わず力説してしまったが、ここは断言せざるを得ない。 眼鏡こそ人類の至宝! コンタクトなど邪道の極み!! 「わっ、ど、どーしたのっ。急に大声出してさ」 「あ、いや……その、何だ。眼鏡のほうが、お前には似合ってるよ」 「え……ホントに?」 「ああ」 と、まあ、場を取り繕うために出た咄嗟の台詞ではあったが。 俺的眼鏡補正がかかっているとは言え、実際可愛らしい赤いフレームの眼鏡はこいつに良く似合っていた。 日向が言うほど地味な印象は無く、むしろお洒落なアクセサリーにすら見える。 これを選んだのが日向自身だとしたら、意外といいファッションセンスを持っているのかもしれない。 「……えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」 ほんのりと頬を朱に染めてはにかむ日向(眼鏡装備)。 うぐっ……こ、これは本当にやばい。何この眼鏡っ娘、反則的に可愛いぞ……!? これがエロゲーのイベントシーンだったら、プリントスクリーン押して壁紙にしているところだ。間違いなく。 にしてもあの地味猫が、まさかこんな隠し技を持っていたとは……。 とりあえず今はこいつが妹の立場で良かったぜ。そうでなければ自制が効かなかったかもしれん。 「よーし、張り切って勉強するぞーっ!」 褒められて気を良くしたのか、日向は勢い良く広げた問題集に取り掛かった。 まずは余計な口出しはせずに、お手並拝見といこう。 ――それにしても、眼鏡といえばこの世界の俺は『秘蔵コレクション』を一体何処に隠しているんだろう。 ベッドの下か、押入れの奥か。和室だし、畳の裏という手もあるか? はたまた天井裏という可能性も……。 とにかく、後で確認しておかないとな。今度こそ、俺の尊厳は断固として死守せねばなるまい――! と、人が勉強している隣でそんな不埒なことを考えているうちに、日向のほうは一通りの設問を解き終えていた。 問題集を受け取り、その答え合わせをする俺に、日向が自信なさげに問いかけてくる。 「……どう、かな」 「ふむ……。確かに、頑張った成果が顕著に現れているな」 算数の宿題でひーひー言っていた頃の日向ちゃんに比べたら、その差は歴然と見て取れる。 だが、それでも細かいところでのミスが目立ち、正直弁展に合格できるかと言えば微妙な線ではあった。 「……目標を持って頑張るのはいいことだと思うが、無理して弁展目指さなくてもいいんじゃないか? 別にそこじゃなくても、もっといい高校は他にいくらでもあるだろ」 つい、そんなことを口に出してしまう。 だがこれは、別に暗に諦めを促しているわけじゃない。 一言言っておかないと、こいつは自分の身体の限界を超えてまでも無理をしそうで心配になったからだ。 実際に、多少なりとも視力が犠牲になっているのは確かなんだし……。 「……うん。自分でもさ、ちょっと厳しいかなとは思ってるんだけど……。でも、やっぱり弁展行きたいし」 「何でそんなに拘るんだ? 特別そんなにいいところでもねえぞ?」 「いいところとかじゃなくて……、キョウ兄ぃと同じ高校に行きたいんだもん」 ……何とも単純な理由だった。 まあ、薄々そんな気はしていたが。 「そう言ってもらえるのは嬉しいが……、お前が来年弁展に入学したとしても、俺は今年で卒業になっちまうんだぜ?」 「うん……分かってるけど」 「あ、でも黒猫がいるか。あいつまだ一年だし、お前が入学してから2年は一緒に通えるな」 「……ルリ姉が、羨ましいな」 「ん?」 「だって、1年間だけだけど、キョウ兄ぃと一緒に学校に通えるんだもん」 寂しそうに呟く日向。 例え同時期に通うことはできなくても、それでも俺の歩いていた道を追いかけたい、ということだろうか。 「はぁ……、キョウ兄ぃが留年してくれれば一緒に通えるのにな……」 「縁起でもねえこと言うなよ。……まあ、何だ、高校は無理でも、大学なら一緒に通える時期もあるだろ?」 「えっ?」 この世界での俺と日向は3歳違いだから、ストレートに行ったとして、四年制の大学なら1年間は一緒に通える計算だ。 「……そっか、大学まで行けばキョウ兄ぃに追いつけるんだ……」 「まあ、お前にその気があればの話だけどな」 「……うん。そうしたい。――そうなれたら、いいな」 少しだけ表情を明るくした日向の頭を、ぽんぽん、と軽く撫でてやる。 「……き、キョウ兄ぃ?」 「だったら、高校受験くらいで躓いてもらっちゃ困るな。仕方ねえ、ちゃんと合格できるレベルになるまで面倒みてやるよ」 「ほ、ほんと!?」 「おう。この成績優秀な先輩に任せとけ」 大見得を切って胸を張る。 正直どう転ぶか分からないが、乗りかかった船だ。 まず教える側の俺が、自信の無い素振りを見せるわけにはいかないからな。 「……で、でも……キョウ兄ぃだって自分の受験勉強あるし、メイワクじゃ……?」 「だからそんな遠慮すんなってさっきも言っただろ? 俺は今更慌てて勉強しなくても十分合格圏内だっての。 それに、人に教えるっていうのも結構いい勉強になったりするんだぜ?」 「そ、それならいいケドっ。……キョウ兄ぃと一緒に勉強かぁ~、にゅふふっ」 随分と嬉しそうな様子の日向を見て、俺はつい失笑を漏らしてしまう。 なんというか、遊園地に遊びにいく約束をした子供みたいな反応だったんだよ。 勉強するのがそんなに楽しみなのかね? 「むぐ……そ、それにしてもさ、キョウ兄ぃのクセに頭イイなんて、世の中オカシイよねっ。基本へたれなのにさーっ」 「お前な……前言撤回するぞ?」 「わっ、嘘ウソ! お願いします、先生っ!」 そんな俺に対してちょっとだけ憎まれ口を叩く日向だが、まあ半分は照れ隠しだろうから今回は大目に見てやろう。 「よーし、なんかすっごくやる気出てきたー!」 腕まくりをする真似をして、日向は再び問題集に取り掛かった。 どうやら、やる気は十分。……となれば、もう一押ししておくか。 「――そうだな、頑張って来年見事弁展に合格した暁には、お前の欲しいもの何でもひとつプレゼントしてやるよ」 後は、このやる気を持続させること。 モノで釣るというのもあざとい気がするが、それなりの効果はあるだろうからな。 「な、なな、何でもっ?」 「ああ。でも、俺の懐事情の許す範囲にしといてくれよ?」 「……そ、それなら、お金のかからないもので……ひとつお願い、しちゃおうかな……っ?」 「遠慮しなくていいんだぞ? 滅多にない機会なんだし」 普段は横柄に振舞って見えるが、こいつ性根は結構謙虚なのかね? そんなら余計に、こんな時くらい多少の我侭も聞いてやりたくなるってもんだ。 「うん、だから……一番欲しいもの、お願いしようかな……って」 「おう。何でも言ってみろ」 お金のかからない、でも一番欲しいもの……ねぇ。 まあ本人がそう言うなら、俺は全力でそれを叶えてやるだけだが。 返答を待つ俺に対し、日向は大きく息を吸い込み、意を決するように言った。 「そ、それじゃっ……、あ、あたしが合格できたら、キョウ兄ぃと……き、キ……」 「き?」 ……何だ? ぼっ、と顔を真っ赤にした日向は、口籠もって言葉尻を濁す。 お陰で、肝心なところが聞き取れなかった。 「すまん。もう一度言ってもらえるか?」 「……だっ、だから、……あたしに……キ、……キ……」 「――キス、ですか?」 …………。 「「 う わ あ ぁ ぁ ぁ ー ー っ ! ?」」 不意に割って入る、この場に存在しない筈の第三者の声に、俺と日向は文字通り飛び上がった! 見ると、いつの間にか日向の背後に見慣れたゴスロリ服姿が佇んでいる。 だが、服装は見慣れたものであっても、身に纏う少女は俺の記憶の中のそれとは違っていて。 肩口に切り揃えられた髪、まだあどけなさの残る顔。 小ぢんまりとした背丈に、アンバランスな胸元の丸い膨らみ。 そこにいたのは、14歳に成長した“この世界の珠希ちゃん”だった。 「な、ななな、な……っ!」 「まったく、ちょっと目を離すと油断も隙もないですね、お姉ちゃんは。私たちの留守を狙って、兄さまにちゅーをねだるなんて」 「ち、ちゅー!?」 「うわーっ! うわーっ!? 何でもない、何でもないっ!」 大声を出す日向は、さっきよりも更に顔を上気させてじたばたと悶えている。 しかし『ちゅー』って……。流石の俺も一瞬驚いたが、珠希ちゃんは日向が俺にまさか『キス』をお願いするとでも思ったのか? んなばかな。だって俺たち兄妹だぜ? その証拠にホラ、日向もこんなに動揺してるじゃねえか。それだけ心外だったってことだろ? 「て、てか珠ちゃんっ、帰ってきたなら『ただいま』くらい言ってよっ!」 「だって、お姉ちゃんが二人きりなのをいいことに兄さまを誘惑してるんじゃないかと思って、こっそり偵察を」 「し、してるワケないでしょー! ていうか珠ちゃんだけには言われたくないよ!?」 「ちゅーしようとしてたくせに」 「ししし、してないからッ!」 ……相変わらず、こっちの世界の日向と珠希ちゃんは張り合うなぁ。 まるで誰かさんたちを見ているようだ。 まあどっちにも言えることだが、別に仲が悪いってわけじゃなくて、どっちかっていうと子猫同士のじゃれあいって感じだが。 「それにしても珠希ちゃん、随分早いな? いつもバイトは夕方までじゃなかったっけ」 傍観しているわけにもいかず、やんわりと横槍を入れてやる。 時計を見ると、まだ午後2時を廻ったくらいだ。 「今日は夕方からみんなでお祭りに行く予定じゃないですか。だから少し早く上がらせて貰ったんです」 あれ、そうなの? 言われてみれば、今日は近所で毎年花火大会がある日だったっけ。 「そういうわけでお姉ちゃん、いつまでも油売っていていいんですか?」 「へ?」 「今日のお買い物、お姉ちゃんの当番ですよね? 早く行ってこないと、出掛ける時間に支度が間に合わないんじゃないですか?」 「うわ、そうだった!」 珠希ちゃんに言われて、日向はあたふたとちゃぶ台の上の勉強道具を片付け出す。 「あんまり急いで、眼鏡外し忘れるなよ?」 「わわっ」 慌てて眼鏡を外し、ケースに仕舞う。 ……俺が言わなきゃ、そのまま出掛けて行っただろうことは想像に難くない。それもアリっちゃアリだが。 「眼鏡……?」 その言葉に反応し、珠希ちゃんが訝しげな声を漏らした。 「あれ、珠希ちゃんも知らなかったのか? 何か最近視力が落ちたとかで、勉強のときは眼鏡かけてるんだと」 「へぇ……そうなんですか」 何か思うところでもあるのか、珠希ちゃんは顎に手をやり、俺と日向の顔に交互に視線を投げる。 「……まさか、〝最終宝具(ラグナロク)〟まで持ち出して兄さまを誘惑するなんて……。いよいよ本気で……?」 「へ? らぐな……って、何、またいつもの厨二病(びょーき)?」 「 何 で も な い か ら !! ほら、とっとと買い物行ってこい、な!?」 「わ、分かったから押さないでってば!」 勉強道具を抱えた日向を、半ば強引に部屋の外へ押し出し襖を閉める。 その足音が自室のほうへ遠ざかっていったのを確認し、ほっと一息。 というか、だ。 「 何 故 お 前 は 知 っ て い る !?」 「……ふふっ、この千葉の魔天聖〝聖猫〟の〝真眼〟を以ってすれば、兄さまの隠し事なんて全てお見通しです」 ……こ、怖え。正に適齢期の厨二病も然ることながら、この珠希ちゃんは何というか、底が知れない空恐ろしさがある。 そもそも、何処となく11歳のときとキャラが重なる日向に対し、珠希ちゃんは6歳のときとは全く違う。 今の珠希ちゃんは14歳に成長しているわけだから、そこには8年の歳月の経過があるわけで。 倍以上の年齢になっているんだから、性格や言動が一変していても不思議はない……といえばそうなのだが。 それにしたって……“どうしてこうなった”と言わざるを得ない……。 「私が最後の手段として取っておいたのに……まさかお姉ちゃんに先を越されるなんて」 「……何を企んでいたのかは怖いから聞かないが、日向は別にお前が思ってるような効果を狙ったわけじゃないようだぞ?」 「そうみたいですね。……それなら、このことはまだ私と兄さまの二人だけの秘密、ってことにしておきましょうか」 「……そうしてくれると嬉しい」 下手をすると公開処刑になりかねんからな。 ここは願ってもない提案を有難く受けさせて貰おう。 ……しかし、よりによって一番知られたらまずい相手に知られてしまった気がする……。 そんなやり取りの中、先程日向を押し出した引き戸が再び開き、バッグを提げた日向がちらっと顔を覗かせた。 「それじゃ、ちゃちゃっと行ってくるケド……二人だけになってもヘンなことしたらダメだからね!」 「するかっ!」 「変なことって何ですか?」 釘を刺す日向に対し、ぽややんと天然口調で返す珠希ちゃん。 こういうときの珠希ちゃんは、厭味も邪気もまるで感じないから余計に始末が悪いんだよな……。 その証拠に、日向もそれ以上強くは言えず。 「と……とにかく! キョウ兄ぃ、お願いね!」 「分かったから、妙な心配してないでさっさと行ってこいっ」 俺の言葉に、渋々といった感じで日向は買い物に出掛けていった。 ――そうなると、この家に今度は珠希ちゃんと二人きり、ということになるわけだが。 日向にはああ言ったものの、正直嫌な予感しかしない。 天然珠希ちゃんはともかく、小悪魔モードの珠希ちゃんにどう対処していいのか。 ぶっちゃけ、未だに良く分からん。 果たして、俺の理性はどこまで耐えられるんだろう……。 「――それじゃ兄さま、私はお先にシャワーを頂いてきますね」 「し、しゃわー!?」 にわかに発せられたその単語に、つい過敏に反応して声色が裏返ってしまう。 くっ、我ながら情けないことこの上ない。 「? 早くしないと、後で姉さまたちも使うでしょうし」 「あ、ああ……そうだよな。夕方から出掛けるんだったか」 どぎまぎする俺に対して、珠希ちゃんはおっとりした調子で小首を傾げている。 い……いかんいかんっ。一体何を想像しているんだ、俺は。 これじゃ、単に俺が意識し過ぎなだけじゃねえか。 いくら魅力的な女の子に成長しているとはいえ、今の珠希ちゃんは妹なんだからな。義理だけど。 平静を取り戻そうと大きく息を吐く俺に、ふと珠希ちゃんが耳元で囁く。 「……あの、兄さま?」 「ん?」 「……覗いちゃ、駄目ですよ?」 「覗くかッ!!」 俺が平常心を保とうとしてる矢先にこれだよ! これだから苦手なんだよ、“この珠希ちゃん”はっ! 「ふふっ。意気地なしですね、兄さまは♥」 くすくすと笑いながら、珠希ちゃんはお風呂場のほうへ去っていった。 くそっ、姉妹揃って似たような捨て台詞を吐きやがって。 意気地とか以前に、俺はお前の兄貴だっての! ……はぁ……、納得いかねえ……。 ☆ ――その後しばらく、俺はお茶の間で勉学に勤しんでいた。 別に、珠希ちゃんに妙な誘惑をされたからじゃないぞ? 何かに没頭していれば、余計なことを考えずに済むからな。 一意専心、煩悩退散――。 そのあまりの集中力に、引き戸が開かれた音にも気付かなかったくらいだ。 「あの……兄さま?」 掛けられた声に顔を上げると、いつの間にか珠希ちゃんが襖の横に立っていた。 集中していたせいか時間の経過が早く感じられるが、あれから既に小一時間が経過していたようだ。 シャワー上がりの珠希ちゃんは先程のゴスロリ服ではなく、白いブラウスとキュロットスカートといった部屋着に着替えている。 首に巻かれたタオルに触れる、まだ濡れた髪が少しだけ艶かしい。 「ん、どうした。そんなところに突っ立って」 「その……ご一緒に風に当たらせてもらってもいいですか?」 しおらしく訊ねてくる珠希ちゃん。 風……って、ああ、湯上りだから扇風機で涼みたいわけか。 そのくらい、いちいち断りを入れることもなかろうに。 「全然構わないぞ。つーか、そんなことで気ぃ使うな」 「……ふふっ、そうですね。ありがとうございます。兄さま♥」 無邪気な笑顔を浮かべ、珠希ちゃんは俺の元へとやってくる。 それは何処となく、『ご本を読んでください』とせがんで駆け寄ってくる6歳の頃の姿に重なった。 こういうところが、やっぱり珠希ちゃんだと思わせるんだよな。 何だか少しほっとするぜ。 「兄さま、少し座を引いてもらえますか?」 「うん? ……こうか?」 そう言われて、俺は座っていた位置を座布団ごと少し後ろにずらす。 風に当たりたいなら扇風機のほうを動かせばいいものを……まあ別にいいけどな。 「それじゃ失礼して……ん、しょっ……と」 「んがっ!?」 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう俺。 だって、それも仕方ないだろっ。 珠希ちゃんは、当然といったように“俺の膝の上”にその腰を下ろしたんだから! 「な、ななっ……なんでわざわざそこに座んの!?」 「何でって……兄さまが遠慮しなくていいって言ったんじゃないですか」 勿論、当の珠希ちゃんには悪びれた様子など微塵も無く。 「いや、言ったけどね!? それは扇風機に当たりたいって言うからでっ。てか、風に当たりたいなら扇風機を動かせばいいだろ!」 「駄目です。言いましたよね、『一緒に風に当たっていいですか』って。だから、兄さまも一緒に風に当たれるこの位置じゃないと」 至極尤もらしいように言ってはいるが、屁理屈にしか聞こえねえ! 「それに、兄さまの膝の上は私の〝領域(テリトリー)〟って、幼い頃から決まっているんですよ? ふふっ」 た、確かに、6歳の珠希ちゃんは何かと俺の膝の上に座ってきていたが……っ。 三つ子の魂百まで、とは言うが、6歳の頃の習慣って14歳になっても続くもんなの!? いや、だからと言ってこれはマズいだろ! あなた、黒猫姉妹の中で一番ちっちゃいけど、いわゆる“女の子パーツ”の発育だけは一番いいんですからっ! こう、膝の上に感じるあったかくて柔らかい感触が、健康な男子にとっては物凄く危険なんです! 「そっ、そうは言ってもだな……っ」 「きゃんっ。……あまり動かないでください、兄さま。くすぐったいです」 もぞもぞと体を動かしこの体勢から逃れようとしたが、珠希ちゃんの甘い声に阻まれてしまう。 つーか、動くと一層ヤバいことが分かった。 珠希ちゃんが膝の上で揺れる度、何というか……女の子特有のぷにっとした弾力が直に伝わってきて……! 「ちょっと涼むだけですから。その間だけ……駄目ですか?」 珠希ちゃんは、座った姿勢のまま顔だけ振り返り、上目遣いで背後の俺を見上げてそう懇願する。 湯上りで火照った表情。その中で真っ直ぐに俺を見つめる、潤んだ二つの瞳――。 くっ、何て強力なおねだり攻撃なんだ……! 可愛い妹にこんな顔をされたら……シスコンの俺が断れるわけないだろ! 「わ、分かったよ。……少しの間だけだからな」 「ふふっ、ありがとうございます、兄さま……♥」 そう言って、珠希ちゃんは安心したように俺の胸にその背中を預けてきた。 薄布を通じて伝わってくる温まった体温と、柑橘系のシャンプーの香りが、俺の五感を擽る。 涼むどころか、余計に熱が上がる気がするんだが……、そう思うのはまた俺が意識し過ぎなせいなのかね……。 はぁ……と、ため息混じりに膝の上の妹姫を見下ろすと。 ……胸元が大きく開いたブラウスを着た珠希ちゃんの、零れんばかりの白い双丘が俺の視界に飛び込んできて――! 「――――ッ!?!?」 ヤバい、この上なくヤバいものを見てしまったッ! つーか割とはっきり見えたぞ!? も、もしかしてその下に何も着てないの!? ぐっ……ま、マズい……ッ! こんな密着した状態で“本能(リヴァイアサン)”を目覚めさせてみろ、それこそ兄の沽券に関わる……ッ!! 慌てて俺は手元の参考書を目の前に広げ、数式を片っ端から頭の中に放り込む。 色即是空、心頭滅却、記憶抹消――ッ! 「? どうしたんですか、兄さま?」 珠希ちゃんがまた肩越しに振り返り、怪訝そうに問い掛けてくる。 気持ちは分かるが、今は参考書から視線を逸らすわけにはいかない。絶対にだ。 もう一度アレを見てしまったら、そこで俺の人生はジ・エンドだ……ッ! 「い、いやっ、何でもないっ。只の勉強の続きだっ」 「……そうですか。兄さまも、少し休憩にしたらいいのに」 ちょっとつまらなそうに言って、珠希ちゃんは再び俺にもたれかかる体勢に戻った。 そうして俺は、気付かれない程度に数回深呼吸をして内なる動揺を鎮める。 すぅ……はぁ……、落ち着け、俺……っ。相手は妹……、そう、この世界では妹なんだ……っ。 「このブラウス、もうお胸のところがきつくてボタンが上まで留まらないんですよね」 「だったらサイズの合った服を着てくださいお願いします!!」 壮絶に突っ込みを入れる俺だった。 こ、この子は……っ! 分かっててやってる小悪魔なのか、それとも天然の為せる業なのか、もう全く判断が付かん!? 「だって、まだ着れるのに勿体無いじゃないですか」 「そ、それはそうかも知れんが……っ、それにしたって女の子がそんな無防備な格好しちゃダメだろ!?」 「大丈夫ですよ。“こんな格好”見せるのは、兄さまにだけ……ですから」 珠希ちゃんは少しだけ恥ずかしそうに、それでいてきっぱりとした口調で言う。 俺にだけ……ってのは、“家族”だから多少だらしないところを見られても平気、ってことか? それとも“兄貴”として信用されてるってことなのか。 言われてみれば当たり前のことだ。 やっぱり、俺のほうが意識し過ぎなんだよな。相手は妹なんだから。 「分かったよ。でもいくら家族の前だからって、程々にな?」 「……はぁ……、……全然分かっていませんよね」 「へ?」 何故か思いっきり呆れられた感じでため息をつかれたぞ? 「……俺、何か変なこと言った?」 「兄さまは、へたれってことです」 …………三姉妹全員からへたれ呼ばわりされる俺って……。 くっ、なんかちょっと旅に出たくなってきた。 「まあ、そういうところも兄さまらしいですけど」 「それ……一応フォローなんですかね……?」 がっくりとうな垂れる俺に、珠希ちゃんはくすくすと笑いながらその後頭部を俺の胸に押し当てる。 「……あ、まだお髪が濡れているから、兄さまの服が……」 「ん。ああ、別にいいよ。すぐ乾くし」 珠希ちゃんの濡れ髪の水分を吸って俺のシャツが少し湿ってしまったが、別段気にする程でもない。 「でも……。……そうだ、兄さまっ。お髪を拭いてください」 そう言って、にこにこと首に掛けていたタオルを俺に手渡してくる。 「な、何で俺がっ?」 「昔はよくこうやって拭いてくれましたよね?」 うん、確かに6歳の珠希ちゃんにはそんなことをしてあげた記憶もあるが。 「それは小さい頃の話だろっ? 今の歳になって、それは……」 「ふっ……お姉ちゃんの頭は撫で撫でできて、私のお髪は拭けないなんて、一体どういう了見なんでしょうね?」 「よしッ、任せろ!」 二つ返事で快く承諾してやった。 ――っていうか、いつから見ていたんだお前は!? 襖の隙間からずっと覗いていた姿を想像すると凄ぇ怖いんですけど!? 涙目半分、ヤケクソ半分で、わしわしと大雑把に拭いてかかると。 「ひゃん。もう少し優しくしてください」 「わ、悪い」 即座に珠希ちゃんに駄目出しをされる。 ……何ていうかもう、妹と兄というよりは、お嬢様と召使ですよね。この立場。 仰せのとおりに、少し力を弱めてやる。……それこそ撫でるくらいに。 「……こんなもんでいいか?」 「はい……とっても、気持ちいいです……♥」 そこだけ聞けばエロゲーの台詞のようだが、無論そんな色っぽい状況ではない。 むしろ、こうしていると、お風呂上りの6歳の珠希ちゃんの頭をバスタオルでごしごしと拭いてやった光景を思い出す。 そう思うと、この膝の上で揺れる柔らかい感触も、不思議とあまり意識しなくなっていた。 ――どのくらいの時間、そうしてやっていただろう。 俺の胸にもたれ掛かる珠希ちゃんの重みが、段々と増してきたかのように思うと。 「…………すぅ……、……すぅ……」 いつの間にか、膝の上の妹姫は安らかな寝息を立てていた。 小さい頃から確かに寝つきのいい子だったが、この状況でも寝るのかよ。 でもまあ、俺も床屋で眠くなるほうだし、気持ちは分からんでもないか。 それに、何だかんだ言ってバイト帰りだったし、疲れているのかもな。 ……少しくらい寝かせておくか。 俺は慎重に体をずらし、起こさないようにゆっくりと珠希ちゃんの体を俺の座っていた座布団の上へ横たえる。 まあ、こいつは一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きないから、そんなに気をつけなくても大丈夫だったかも知れないが。 そして、体を冷やさないよう、部屋からタオルケットを持ってきてそっと掛けてやった。 こうして眠っている顔は、本当に子供みたいであどけないんだけどな。 この子はまるで気紛れな猫のように、天使へ、小悪魔へとその表情をくるくると変える。 まったく、本当に困った妹だぜ……色々な意味で……。 ☆ 俺は、静かな寝息を立てる珠希ちゃんの横で再び参考書を広げた。 すると、10分も経たないうちに玄関が開かれる音がする。どうやらまた誰か帰ってきたようだ。 「――ただいま、兄さん」 お茶の間の引き戸を開けたのは、黒猫だった。 今日の服装は、夏コミバージョンの私服。上着は着ておらず、ノースリーブで涼しげな装い。 流石にバイトに行くのにネコミミまでは装着していないようだ。 「おう、お帰り。お前も今日は早上がりなんだな」 時計は午後3時半に差し掛かろうというところ。 いつもなら帰ってくるのは夕方だから、2時間くらいは早い。 理由は訊くまでもなく、珠希ちゃんと同じだろう。 「ええ。……あら、珠希、寝ているの?」 「ああ、帰ってきてシャワー浴びたらここで寝ちまって。バイトで疲れてるんじゃないか?」 多少端折ったが嘘は言ってないぞ? 「まったく……仕方がないわね」 小さくため息をつく。 珠希ちゃんの寝付きのよさと寝起きの悪さは黒猫も熟知しているから、無理に起こそうとは思わないようだった。 「このタオルケットは、兄さんが?」 「ん? ああ、湯冷めして風邪でもひいたらあれだからな」 「……ふふっ、相変わらず優しいのね……京介」 そう言って、穏やかに微笑む黒猫。 その暖かな笑顔に、不覚にも一瞬見惚れてしまう。 日向も、珠希ちゃんも、ここでは可愛い『妹』だが、やっぱり黒猫は特別だ。 可愛い『妹』ではあるが、それ以上に、大切な『恋人』でもある。 それは今はまだ、俺と黒猫だけの秘密だったりするのだが――。 「……そ、そんなんじゃねえよ。当然だろ、兄貴として」 「フフッ、そうね。気が利く『兄さま』ね」 今度はくすくすとからかうように笑う。 そうして黒猫は台所のほうへ歩いていき、冷蔵庫から作り置きの麦茶をコップに注いでこくこくと飲み干した。 「兄さんも飲むかしら?」 「いや、俺はいいよ」 「そう。そういえば、日向は出掛けているの?」 「ああ、買い物に行ってる。でも、そろそろ帰ってくる頃じゃねえかな」 「そうなの。……それなら、先に私もシャワー浴びてこようかしらね」 使い終わったコップを手際よく洗い、お茶の間を出て行こうとする。 と、襖の前で足を止め。 「私がシャワーから上がったら、珠希を起こしてもらえるかしら。支度をさせないといけないから」 「ん、了解」 寝起きの悪い珠希ちゃんを起こすのは、いつも俺の役目。 このあたりは、兄妹の阿吽の呼吸だ。 俺の返答に満足げに口元を緩め、黒猫はお風呂場へと向かっていった。 ……言っておくが、覗かないからな? (if・俺の妹猫がこんなに可愛いわけがないⅡ(後編)へ続く)
https://w.atwiki.jp/ef_series/pages/9.html
ef - a tale of melodies. part○○ アニメ板用テンプレ 現在進行中のアニメ板スレ用 最終更新日 12月11日 1 「聴こえますか - 真実の旋律」ef - a tale of melodies.===========================重要===============================・【※実況厳禁】放送内容に対するリアルタイム書き込み行為は実況です。・基本的にsage進行(メール欄に半角でsage)で。2ch用ブラウザ導入推奨。ttp //browser2ch.web.fc2.com/・原作や雑誌等での未放送バレ、特定の登場人物の話は別の場所で。・You Tube(ようつべ)、ニコニコ動画、Winny等、動画共有や類似する話題は各々の専用板で。・悪質なコテハン、荒らし、煽りは無視。(2ch用ブラウザのNG機能活用を)→削除依頼:http //qb5.2ch.net/saku/・次スレは 950が、重複防止の為に宣言してから立てること。無理なら代わりを指名。テンプレはwikiのものを使用すること。==============================================================※実況は下記専用板で ・番組ch実況板 http //live24.2ch.net/weekly/ ・番組ch(西日本)実況板 http //live24.2ch.net/livewkwest/ ・スカパー実況板 http //live24.2ch.net/liveskyp/ ・新アニメ特撮実況掲示板(read.cgi終日停止中/※要2chブラウザ) http //cha2.net/cgi-bin/anitoku/◆TV放映日程☆ef - a tale of melodies. [ef2期]テレビ神奈川(tvk)/毎週月曜26 15~京都放送(KBS)/毎週火曜25 30~サンテレビジョン(SUN)/毎週火曜26 10~AT-X/11月14日(金)/毎週金曜日 13 30~/23 30~ 毎週火曜日 17 30~/27 30~◆NET配信日程アニメイトTV(http //www.animate.tv/)/毎週水曜日午後更新。最新話を一週間限定で無料配信公式HP(http //www.ef-melo.com/)にてサンテレビ放送後1日限定配信◆関連HP公式:http //www.ef-melo.com/まとめwiki:http //www20.atwiki.jp/ef_series/AA保管庫:http //monabase.net/efWikipedia:http //ja.wikipedia.org/wiki/Ef_-_a_fairy_tale_of_the_two.◆前スレef - a tale of memories./ melodies. part○○http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anime/ 2 ef - a tale of melodies.◆声の出演雨宮 優子 : 中島 裕美子 火村 夕 : 遠近 孝一羽山 ミズキ : 後藤 麻衣 久瀬 修一 : 浜田 賢二広野 凪 : 伊藤 静 雨宮 明良 : 古澤 徹◆主要製作陣原 作 : minori ttp //www.minori.ph/ ※18禁 鏡遊・御影監 督 : 大沼 心 シリーズ構成・脚本 : 高山 カツヒコ色彩設定 : 日比野 仁 キャラクター原案 : 七尾 奈留 (女性キャラクター)美術監督 : 小濱 俊裕 2C=がろあ (男性キャラクター)音 楽 : 天門・柳 英一郎 アニメーションキャラクターデザイン : 杉山 延寛音響監督 : 鶴岡 陽太 撮影監督 : 内村 祥平編 集 : 関 一彦 監 修 : 新房 昭之アニメーション制作 : シャフト . 製作 : 「ef2」製作委員会ef - a tale of memories.◆声の出演宮村 みやこ : 田口 宏子 .広野 紘 : 下野 紘新藤 景 : 岡田 純子 堤 京介 : 泰 勇気新藤 千尋 : やなせ なつみ 麻生 蓮治 : 高城 元気羽山 ミズキ : 後藤 麻衣 久瀬 修一 : 浜田 賢二雨宮 優子 : 中島 裕美子 火村 夕 : 遠近 孝一◆主要製作陣原 作 : minori ttp //www.minori.ph/ ※18禁 鏡遊・御影監 督 : 大沼 心 シリーズ構成・脚本 : 高山 カツヒコ色彩設定 : 日比野 仁 キャラクター原案 : 七尾 奈留 (女性キャラクター)美術監督 : 加藤 恵 2C=がろあ (男性キャラクター)音 楽 : 天門・柳 英一郎 アニメーションキャラクターデザイン : 杉山 延寛音響監督 : 鶴岡 陽太 撮影監督 : 内村 祥平編 集 : 関 一彦 監 修 : 新房 昭之アニメーション制作 : シャフト . 製作 : 「ef」製作委員会 3 ◆2期 (melodies.)OP曲: ebullient future / ef -a tale of melodies. OPENING THEME~feat. ELISA GNCA-0122 / 1,260円(税込) / 平成20年11月05日(水)~発売中ED曲: 笑顔のチカラ / ef - a tale of melodies. ENDING THEME~Fermata by Mizuki Hayama GNCA-0124 / 1,260円(税込) / 平成20年11月05日(水)~発売中 願いのカケラ / ef - a tale of melodies.ENDING THEME~Fine by Yuko Amamiya GNCA-0123 / 1,260円(税込)/ 平成20年11月26日(水)~発売中サントラ:ef - a tale of melodies.ORIGINAL SOUNDTRACK 1 GNCA-1165 /2,940円(税込)/ 平成20年12月26日(水)発売予定 ef - a tale of melodies.ORIGINAL SOUNDTRACK 2 GNCA-1166/ 2,940円(税込)/ 平成21年2月27日(金)発売予定ドラマCD:「ef - a fairy tale of the two.」DX1「夕と優子の幸せな冬」 FCCP-0030 /2、940円(税込)/平成20年11月27日(木)~発売中DVD: ef - a tale of melodies. Blu-ray第一巻【初回限定版】 GNXA-1010 / 8,190円(税込) / 平成20年12月26日(金) 発売予定 ef - a tale of melodies. DVD第一巻【初回限定版】 GNBA-1320 / 7,140円(税込) / 平成20年12月26日(金) 発売予定 ◆1期(memories.)に関しての製品情報はまとめwikiを参照 4 ◆ef - a tale of melodies. Q&AQ:前作(ef - a tale of memories.)見てないんだけど見なくても大丈夫?A:直接の関係は殆んどないと思われるので、見なくてもあまり不自由はしないと思われます。ですが、元々原作ゲームが「ef - a fairy tale of the two.」という1つの作品である以上、見た方が理解が深まりより楽しめると思います。 5 ◆キャラスレ【アニメキャラ(個別)板:http //changi.2ch.net/anichara2/】【ef】新藤千尋ちゃんのスレッド 2.5http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1222622777/【万能娘】ef・宮村みやこちゃん萌えスレ【ナイスバディ】http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1192421261/【ef】新藤景に踏まれたい2.5踏まれ目【幼馴染】http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1215766335/【ef】雨宮優子さんに萌えまくろう! chapter2http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1219440078/【ef】羽山ミズキの涙をぬぐうスレ【元気娘】http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1207929283/【ef】広野凪の買い物に付き添うスレ1.1【僕っ娘】http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1217158817/◆その他の関連スレネタバレ・先取情報スレ: [アニメサロン板] ef - a tale of memories. ネタバレスレhttp //changi.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1194019071/アンチ・批難意見スレ: efは原作が未完成の糞アニメ(dat落ち)http //ex21.2ch.net/test/read.cgi/anime/1191338157/アンチ・批難意見スレ:新房イラネ ef - a tale of melodies.自慰演出の糞アニメhttp //changi.2ch.net/test/read.cgi/anime/1222706616/[エロゲー作品別板※18禁]ef - a fairy tale of the two. 第28章ttp //qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1223329902/[エロゲー板※18禁]minoriスレッド62ttp //qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1212767681/[キャラサロン板※18禁]ef - a tale of memories.なりきりスレttp //babiru.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1194288526/◆ラジオ配信<音泉> ゆみこ ゆうなのえふメロらじお ttp //www.onsen.agパーソナリティ:中島裕美子、ねこねこ天使まじかるゆうな
https://w.atwiki.jp/psprokyubu/pages/19.html
テンプレは下から あなたの好みはロリ!?スポ!? PSPロウきゅーぶ!好評発売中 価格:限定版8,820円 通常版6,090円 DL版5,040円 公式サイト http //d-game.dengeki.com/RO-KYU-BU/ PSPロウきゅーぶ!wiki http //www18.atwiki.jp/psprokyubu/ 過去スレ 【PSP】ロウきゅーぶ!5試合目 http //toro.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1322443221/ 【PSP】ロウきゅーぶ!4試合目 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1320746915/ 【PSP】ロウきゅーぶ!3試合目 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1320234107/ 【PSP】ロウきゅーぶ!2試合目 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1319904511/ 【PSP】ロウきゅーぶ! http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1319383520/
https://w.atwiki.jp/prometheus/pages/15.html
【HEN】PIL動作タイトル報告スレ【TN】 http //yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/gameurawaza/1294279487/
https://w.atwiki.jp/emulatale/pages/22.html
wktk2ch ギルドマスター:FuzzyLop 人数:46/80 メンバー 名前 Lv/職 コメント FuzzyLop 魚りぁー (。・x・) 名前
https://w.atwiki.jp/kuroneko_2ch/pages/1255.html
Merry Xmas!!黒にゃん! そんなわけでクリスマスを題材にしたSS 『朝の光輝けり』を投稿させて頂きました。 この話は原作12巻から1年後の話として書き始めた拙作 『光のどけき春の日に』 『かわらないもの』 『呪いの果て』 『父の教え』 『黒騎士の微笑み』 から話が続いています。 作中の設定のために、クリスマスを題材にしているはずなのに ほとんどそれらしい描写がないのが恐縮ですが 少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。 -------------------------------------------------- 「はい、試験時間は以上です。筆記具を置いてください。 それでは答案用紙を後ろから順に前の方に回してください」 試験官の指示に合わせて私は愛用の鉛筆を机に置くと 大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。 ……ふぅ、今日の模試くらいなら合格できそうかしら……ね。 今まで試験に全神経を集中していたこともあって その確かな手応えをようやく実感することが出来た。 今年ももう残すところあと3週間。今年最後のこの模試の結果次第で 本来は最終的に願書を出す学校を慎重に選ぶべきなのでしょうけれど。 私は第一志望とする大学を今更変えることなどないものね。 経済的な面からは国立の学校で、そして実家から通えるのが望ましい。 そして将来のことを考えて、私は自分の今の得意分野を生かせる様に 情報工学のある大学を希望している。 それら全てを満たす大学は唯一つ。そしてそれらの条件よりなによりも。 その大学には私が望む最大の理由もあるのだから。 だから模試の結果がどうだから、と諦めるわけにはいかない。 もちろん、そこが私の学力であまりにも 無謀で高望みな学校なら論外ではあるけれども。 この大学に合格するために、私は『闇の宿務』に匹敵するほど 受験勉強に力を注いで取り組んできた。 元々の私の学力では、とても合格は覚束なくて 今までの模試の結果でもB判定以上を取れたことはなかった。 担任の先生にも、もう1ランク偏差値を下げた学校を 薦められた事もあったくらいなのだし。 でも私はそれでもあくまで第一志望を変えずに来た。 そして学祭が終わってコン部の活動を終えてからは 全ての創作活動を中断して、勉強だけに集中したわ。 その甲斐があったのか今回の模試では十分な手応えを感じられた。 結果は年末になるのでしょうけど、きっと今までのどの模試よりも 良い判定を出せる自信がある。 でもそれで安心することなんて、とても今の私にできる余裕はない。 1ヶ月後にはセンター試験が。そしてその1ヶ月とちょっとで 本来の入試となるのだけど。 すでに残り少ないそれまでの間は今までと同じくらいに、 いえ、今まで以上に勉強と試験対策を怠らないようにしなければ 今回の結果をコンスタントに出す事などできないでしょう。 おかげで今年は私が闇の宿命に目覚めてから ずっと欠かさず続けてきた冬コミの参加をも見合わせた。 『夜魔の女王』として己が魂の発露の機会を失うのは口惜しいけれど 今は目指す『理想の世界』のために雌伏の時も必要ということよ。 それとオタクっ娘で予定されている年末年始関連のイベントも 冬コミと同様に見送らざるを得ないでしょうね。 きっと桐乃あたりにそんな事を言えば 『そんな目前になって慌ててやった事なんて結局身につくわけないじゃん。 付け焼き刃でどうにかしよう、なんてみっともなくあがいてないで 普段どおりの実力が出せるように休む時は休むべきっしょ』 なんて返される光景がこの『神眼』に浮かぶようね。 でもね、桐乃。 今回ばかりは何の弁解も悔悟もなく全てを賭して挑むつもりよ。 私の目指す理想により近づくために。 私の抱く宿願、見果てぬ夢、邁進する行路。 それを成すべき策謀として。私を取り巻く情勢や時宜、 全ての『因子』を鑑みて導き出した『術式』として。 私は是が非でも志望校に合格しなければならないのだから。 だから……どうか私の我が儘を赦して頂戴。 心の中で親友に謝ると私は席を立ち、教室を後にした。 とはいえ、それを実際に桐乃に伝える時には やっぱりあの娘はすんなりと受け入れてはくれないでしょうね。 どうやってそれを宥め賺したものかしら、と 今受けた大切な模試の事すらすっかり頭の中から追いやって 懸命に考えていた自分に気付いて、思わず苦笑いを浮かべてしまう。 会場の外はここのところの冷え込みですっかり冬めいた空気になっていた。 心身ともに疲れていた今の私の頭と身体にはそれも心地よく感じられた。 ふと見上げた冬の寒空はそのほとんどが雲に覆われているばかりか 暗く重い鉛色に染まっているところもある。 シンと冷たく、研ぎ澄まされた冬の空気は そもそも私にとって一番好きな季節ではあるけれど。 でも、冬の雨に濡れるのは御免被りたいところね。 今の大切な時期に風邪などひくわけにもいかないこともあるし。 ……なにより、あの時のことを思い出さずにはいられないもの、ね。 そんな気持ちに引きずられて、徐々に歩を早めていった私は 文字通りに師走の町並みを駆ける様に家を目指すのだった。 * * * 間が悪いことに自宅まであと数百メートルというところで 遂に冬空に泣き出されてしまった。幸いかばんの中には 常備している折り畳み傘はあるものの、それでこの空模様と同じく 今の憂鬱な気分まで晴れてくれるわけでもない。 私は深々と溜息をつきながら傘を取り出すと 模試で疲れた身体をさらに鞭打って、我が家に向かって走り出した。 せっかく持ち合わせた傘も、走りながらではその防御効果は 半減してしまい、瞬く間に足元や袖口を濡らし始めている。 でもその代償を払ってでも、私は一刻も早く我が家に戻る事を選んだ。 自らの記憶に、心象に、そして立ち向かう宿命から逃れるかのように。 荒い息をつきながらも漸く見えてきた自宅に駆け込んだ。 乱れた呼吸を整える間も惜しく、すぐに自分の部屋に行って 散々に濡れてしまった制服から普段の部屋着にしている 中学生時代のチャージに着替えた。 ……まったくなんて様かしらね、この『夜魔の女王』ともあろうものが。 自嘲の笑みを浮かべながら、すっかり水気を帯びた髪の毛をタオルで拭う。 己が進むべき道を見定めて、それに邁進する覚悟を固めて。 そのためにどんな試練があろうとも決して諦めない、と 自らに強く『誓約』をかけた身であるのだけれども。 それで過去の記憶や現在の躊躇い、そして未来への憂慮が 綺麗さっぱりなくなってくれるわけではないのだから。 いえ、むしろその『誓約』故に我が身にかかる 『心圧』は以前よりも増しているともいえるわね。 それに私の決意一つではどうにもならないような問題も多い。 私を取り巻く人間関係や物質的状況、時間的制約、 そして何より人の『想い』という自身のものですら御し切れない 要素をも見据えて、より良き手法を模索し続けなければ 私の目指す場所に辿り着くことは適わないだろうから。 ……でも、そんなこと、今更よね。 私は頭を軽く振って、今までに数えきれないほど 考え尽くしてきたを命題を追いやった。 そしてそんな気分を切り替えるためにも 夕飯の準備に取り掛かろうと愛用の割烹着を身に着けた。 『何事も形から入るというのも大切なことなんだよ、瑠璃。 思い通りにいかないような時なんてのは特にねぇ』 私がまだ日向くらいだったころ、大好きだったお婆ちゃんから 家事を教わっていた時に聞かされた言葉が思い浮かぶ。 おかげで、何かに真剣に取り組むときや気持ちを切り替える時には 我が身を纏う装束を換装して集中力を高めるのが私の流儀になっていた。 さすがに割烹着を来たからとすぐに気が晴れてくれるわけでもないけれど。 少なくとも家事に取り組まねばという活力は湧き上がってくる。 我ながら単純ではあるけれども、ね。 早速台所に向かおうとしたところで 机の上においていた愛用のスマホから着信のメロディが流れてきた。 最初のイントロで聞き分けられるそれはマスケラの2期エンディング。 激しい曲調の多いマスケラのボーカル曲の中で、珍しく穏やかなそれは 漆黒と彼に関わる人たちとの束の間の安らぎを表現していて 私のお気に入りの曲の一つでもある。 そしてその着メロを対応させている人物は只一人だけ。 私はすかさずスマホを手に取って、パネルに想定通りの名前が 表示されているのを確認すると、即座に通話アイコンをスライドさせた。 「もしもし……どうしたの?沙織」 『もしもしでござるよ、黒猫氏。今、お時間大丈夫でござるか?』 「ええ、これから夕飯の準備をするから長話はできないけれどね」 『あいわかり申した。なにさしてお時間は取らせませぬ。 模試も終わってそろそろご自宅に戻られた事と思いましてな。 して首尾のほうはどうでござりましたか』 わざわざ模試が終わるタイミングではなく、家に着くまでの時間を 考慮しているあたり、沙織の気配りも本当、まめなことよね。 「そうね、今までの模試の中でも一番の結果を出せると思うわ。 今回は第1志望にもA判定が貰えそうなほどには、ね」 『おお、それは重畳。黒猫氏の不断の努力がここにきて ついに実を結んだ、というところでござろうな。 なにはともあれお疲れ様でござるよ』 「でもたまたま私と相性の良い問題が多かったのも事実よ。 本試験でこうも上手くいく保障はないわ」 『相変わらず己に厳しい御仁でござるなぁ、黒猫氏は。 それでも最後の模試でその手応えが得られたのは大きな成果でござろう。 ……そして、こちらが本題なのですけれど』 それまでの『バジーナ』としての陽気な調子から一転して 沙織本来のお嬢様然とした落ち着いた声に変わって後を続ける。 『黒猫さんはやはりクリスマス会には参加は難しそうでしょうか?』 前々から沙織には、受験に集中したいからオタクっ娘の年末年始の イベントには、参加できなさそうだと伝えてはいたのだけれども。 今回の模試の結果次第では、と期待してくれていたのでしょうね。 その心遣いが嬉しく思うし、そんな親友になんとか応えてあげたいのも 私の偽らざる気持ちでもあるけれど。 「そうね、例え苦手な問題が出ても今回のような結果が出せるように まだまだ最後の追い込みをかけなければならないもの。 予定通りにクリスマス会や冬コミは欠席でお願いするわ。 参加する皆で私の分まで楽しんでおいて頂戴」 『……そうですか。きりりんさんやユウさんが残念がりますね』 「ええ。あなたにばかり厄介ごとを押し付けてしまっているけど 上手くあしらって当日は盛り上がってくれれば私も憂いがないわ。 ……本当、いつもごめんなさい、沙織」 私はスマホで通話しているというのに自然と頭を下げていた。 桐乃たちだけではなく、沙織自身だって 間違いなく残念に思ってくれているとわかるから。 それにオタクっ娘の管理人として、沙織は裏表のサークル問わずに 積極的にイベントを企画してはメンバーを楽しませているのだけれど。 そんな沙織のおかげで、私はそれまで受け入れるがままだった 『闇の宿命』と相対し、乗り越える転機を迎えることができた。 そしてそれからも私は沙織に何度も支えられて今に至っている。 今だって平日のこんな時間にわざわざ連絡をしてくれているのだしね。 だから常々抱いている沙織への感謝が思わず零れてしまったのでしょう。 沙織がそれになんと応えるかもわかりきっているのにね。 「ふふっ、どうしました、黒猫さん。今更水臭いですわよ? わたくしはいつだってわたくしのやりたいようにやっているだけですから。 だから黒猫さんもそんなことを気になさらないで 自分の目指す道を胸を張って進んでください」 そんな私の気持ちなんてお見通しなのか 沙織は穏やかな声で予想通りの答えを返してくれる。 それでいつものように私の疚しさも口惜しさも 淡雪のように消え去ってしまうのだものね。 「フッ、あなたに言われるまでもないわ。 今はまさにそのための枢要たる分水嶺なのだから。 『運命に抗いし者』として、誰でもない私自身の手で 理想へと至る縁を掴みとって見せるわ」 『はい、それでこそ黒猫さんです。 そんな気高さに私も何時も励まされていますわ』 半分は私を気遣っての言葉なのでしょうけれども。 沙織も私と同じように自らの境遇に甘んじることなく 自身を変え、目的を叶えんと宿命と対峙し続ける『同胞』でもある。 だからきっとその言葉は沙織にとっても偽らざる本心だと思うし 私があなたを勇気付けられているのならそれはとても誇らしい事ね。 おかげでずっと沈んでいた心もすっかり本来の調子を取り戻してくれていた。 「それはお互い様というものよ、沙織。 だからたまには素直に感謝させて貰ってもいいでしょう? ……こんなクリスマスを控えた冬の日は特に、ね」 『……そうですわね。あれからもう2年になりますか』 沙織も私の言わんとしている所をすぐに察してくれたらしい。 2年前のあの冬に、私たちが迎えた出来事を。 「ええ、あの時と同じように、今年もまたクリスマスに向けて 面倒な事をあなたに頼んでいるのだから。まったくこの 『夜魔の女王』とあろうものが、成長のないことよね」 あの時の冬、私達を取り巻く関係は大きく動こうとしていた。 先輩への想いを何人もの女の子が明らかにしていたし 何よりも先輩と桐乃との間の複雑に絡みあった問題を 桐乃が留学する前に解決しなければならなかったから。 そして先輩は自身の選んだ答えを伝えるための準備として 友達で一番中立の立ち位置にいた沙織に相談と協力を頼んでいた。 クリスマスのためのプラン作りや施設の予約を手伝って欲しいと。 このことは桐乃には絶対に秘密にしておいてくれ。 沙織はそう先輩に念を押されていたらしい。本来念を押すまでもなく 沙織が自分だけに相談された事を他言するなんてありえないけれど。 でも沙織は先輩からその話を聞いた時には大いに悩んだらしい。 私達オタクっ娘の集まりにとっても、その先輩の行動が とても重要な意味を持つ事になると察したのでしょうね。 結局、考え抜いた末に沙織はその事を私に伝えてくれた。 本当にこのまま先輩の後押しをしていいのか。 あの2人をそこまで踏み込ませてしまってもいいのか。 その結果、私の想いが遂げられなくなるのではないか。 沙織は全てを話してくれた後、そう私に尋ねてきたのだ。 『拙者、今回の件に関しては皆の判断にお任せして 傍観者に徹しようと思っていたのでござるが…… それでも拙者にとっても望んでいた未来がありまする。 できれば黒猫さん。身贔屓と言われても、あなたの 『理想の世界』が実現して欲しい、とわたくしも願っているのですよ?』 それを聞いた私が、あの時どれだけ嬉しかったか、今でも鮮明に思い出せる。 私の人生で初めて出来た親友のために、初めて恋した人のために。 そして私の想いをも成就させるために考え実行してきた計画を もう一人の掛け替えのない親友が共に力添えてくれるというのだから。 私の気持ちを何よりも優先して考えてくれていたのだから。 だからこそ私は迷いなく沙織に応えた。 どうかそのまま先輩の力になってあげて欲しい、と。 先輩の選んだ答えがどうであれ、その先にこそ 私の目指す理想が続いていくのだから、と。 沙織は暫し考えこんだ後、それ以上は何も聞かずに黙って頷いてくれた。 『ならば僭越ながら京介氏の動向は逐次黒猫氏に報告させて頂きますぞ。 なにせ京介氏の事ですからなぁ。きりりん氏との事ともなると 果たしてプランどおりに事を運べるかどうか心配になるというもの。 ……いつも通りにわたし達のアシストが必要かもしれませんでしょう?』 そういって、沙織は見た目通りにお嬢様然とたおやかに微笑んでくれた だから私も沙織の配慮を快く受け止められるように 『夜魔の女王』に相応しく艶然と不敵に笑んで見せた。 親友のせっかくの好意に素直に応えられない申し訳なさと。 それでも私に手を貸してくれる、文字通りに 涙が出るほどの嬉しさを覆い隠せるように。 沙織のおかげで、あの時、先輩が私の所へ想いを伝えに来たときも 万全の体制で臨むことができた。先輩の答えを受け入れる心構えも その答えを桐乃に届かせるための一手も、ね。 もっとも心構えが出来ていたことと、それをすんなり 受け入れる事が出来たかどうかは別ものであったけれども…… そしてクリスマスの当日には『生涯最大の呪い』を発動させて 無事に事の顛末を見届けることが出来た。 全て沙織の助力なしには成し得なかったものね。 その後も自業自得だというのに、先輩の事を考えては 思い悩み落ち込む私を懸命に励まし続けてくれた。 今まで以上にイベントを企画しては私達を楽しませたり ユウを始め、新しい人を裏のメンバーに引き入れて 新たなオタクっ娘の雰囲気を作り出したりして。 悲しんでいる暇などないのだと言わんばかりに。 こうして思い返してみても、沙織は私達のためにずっと尽力してくれた。 それは沙織自身のサークルの仲間を二度と失いたくない、 という願望故の行動なのも間違いはないでしょうね。 でもこんな捻くれものの私にだってもう十分にわかっているわ。 だって、沙織のそれは、私の掛け替えのない家族が向けてくれるような 優しさと暖かさに満ちているから。 本当、それをいいことにして、いつまで私は あなたの好意に甘え続けてしまっているのかしらね。 だからこそ、そんな自嘲の気持ちが思わず言葉に出てしまっていた。 でも電話口の向こうの沙織はそれを聞くや否や、くすくすと笑い出して。 『いいえ、何をおっしゃいますか、黒猫さん。 あなたは2年前とはすっかりお変わりになりましたわ。だって』 可笑さのあまり、話すことすら苦しいのか 一旦そこで沙織は言葉を切って呼吸を整えていたようだった。 『あの時とは比べ物にならないほど笑顔を見せてくれるようになりましたよ? それこそ、女性のわたくしから見ても可愛らしくて仕方がないくらいに』 「そ、そう、なのかしら……?最近何度かそんな事を 言われるのだけど、私には全くそんな自覚はないのだけれど」 普段自分の事を「可愛い」などと言われたら、反射的に反発してしまうか 取り乱してしまうくらいに感情が昂ぶってしまう事が多い。 『それはもう黒猫さんにとっても自然なものになったということでしょう。 ですからそんな風にご自分を卑下なさるものではありませんわよ? 黒猫さんは間違いなく日々成長していますもの』 「そう……であればいいのだけれど」 でも沙織に言われると言葉通りに受け取ることができる。 まるでお母さんと話している時のように 沙織には素直な自分を出せている事に最近気がついていた。 桐乃との何の遠慮もなく全力でぶつかり合える関係とはまた違った まっさらな素の自分を見せてもなんの問題もないという安堵感。 ここ数年だけの付き合いとはいえ、互いの弱さも強さも全て見せ合って 共に歩んできたあなたとは、沙織自身が言っていた通り 遠慮なんて水臭い、ということなのでしょうね。 『はい、これならきっと、そう遠くないうちに黒猫さんが望む世界へ たどり着けるのではないでしょうか。わたくしはそう信じていますよ』 「ええ……改めてありがとう、沙織」 『はい、どういたしましてでござるよ、黒猫氏』 今度は自嘲でも後ろめたさでもなく、心からの謝意を送ることができた。 それが伝わったのか、沙織も暖かな声で受け入れてくれる。 「いけない、すっかり話も長くなってしまったわね。 では改めてクリスマス会のほうはお願いするわ」 『判り申した!黒猫氏も入試までの追い込み、大変でござろうが この大切な時期にはくれぐれも御自愛くださいませよ』 「ええ、肝に命じておくわ。それじゃあね、沙織」 『またでござるよ、黒猫氏』 私はスマフォを元通り自分の机に置くと急いで台所に向った。 時計を見ればもう18時を回ろうとしていたのに 夕飯の準備は何も出来ていないのだから。 でも、おかげで憂鬱な気分もすっかり晴れていたものね。 模試で心身ともに疲れていたことすら忘れて 気がつけば鼻歌交じりに夕飯の準備を進めていたくらいだもの。 ……本当、いつもありがとう、沙織。 私は掛け替えのない親友に向って、心の中で何度目かも判らない礼を送った。 * * * 今年の本来のクリスマスイブは水曜日という週の真ん中なので おそらく多くの人が今日23日の祝日にパーティを開いたり ケーキを食べたりして、年に一度の聖なるイベントを 過ごしているのではないかしらね。 本来『闇の眷属』たる我が家とてその例外ではなく 今日クリスマスを祝うための定番のケーキや晩餐、 そしてプレゼントなどを準備している。 私は祝日なので朝から自室に籠って受験勉強に取り組んでいたのだけれども。 気分転換もかねて、夕飯の買い物に出かけることにした。 例年のように日ごろの感謝を込めて、腕に縒りと手間をかけた 聖夜の晩餐を家族に振舞う、なんて時間がないのが口惜しい限りね。 でも、そんな私の代わりに、クリスマスケーキはお母さんが 年末の忙しい中だというのに前もって作っていたし、 日向や珠希が夕飯の用意は自分達でするのだと言って 張り切って私の帰りを待ってくれている。 そんな家族の心遣いは本当に嬉しくて。 だから皆の気持ちを大切に受け止めつつも、今の自分でも 出来る限りの事はしたくて、夕飯の材料の調達を買って出たのよ。 さすがに日向達には食材の目利きや費用の抑え方などは まだまだ任せきれないところでもあるし。 私は今日の献立に必要な食材を行きつけの商店街やスーパーで 一通り買い揃えると、妹達が首を長くして待っている 自宅へと急いで引き返した。 まだ午後5時前だというのにすっかり日は落ちていて 宵闇に閉ざされた帰り道をぽつりぽつりと設置されている 街灯が頼りなさげに照らし出していた。 そんな不十分な灯りでは、闇の領域が逆に鮮明に浮かびあがっている。 『闇の眷属』でもない只の人の身には、それは本能に刻まれた原初の不安や えも言われぬ焦燥感を与えてしまうことでしょうね。 ふふっ、確かにこれでは桐乃にも『狂気の街』と 揶揄されても仕方ないところではあるわね。 毎日通っているはずのこの道で、今日に限っては そんな他愛もない昔の思い出が脳裏を過ぎっていた。 無論その理由にも思い当たるところはあるのだけれども。 丁度今頃、オタクっ娘のクリスマスパーティが 沙織のマンションで開かれているころでしょうから。 私の意思で選んだ行動とはいえ、そこに加われなかったのが やはり心残りで仕方ない、というのが偽らざる本音だもの。 いつものチャットで桐乃にパーティの欠席を伝えたときには 納得いかない、と桐乃があまりにもしつこく食い下がってくるものだから 私も意地になって大げさに啖呵を切っていたというのにね。 それからと言うもの、いつものチャットは勿論 学校でも顔を合わせる度に、いえ桐乃の方から暇さえあれば 私のところにやってきてはずっと文句を言い続けていた。 受験生である私達3年は、既に通常の授業は終わっていて 特別編成された受験対策用の講座を必要に応じて受けているのだけど。 どこから聞きつけたのか、私が教えてもいない講座の場所にも きっちり合わせて教室にやってくるのだから その執念にはほとほと参ってしまったわ。 入試が終わるまではと私はオタクっ娘の活動は自粛するつもりだったのに。 最後には初詣だけはいつものメンバーと一緒に行くと約束したことと クリスマスのために皆の分を用意していたプレゼントを桐乃に託すことで なんとか聞き入れてもらったわ。 とはいえ、今でもパーティの場で桐乃が私に対して ぶつぶつと文句を言ってる様が目に浮かぶようでもある。 きっと沙織や先輩が懸命にそれを宥めているのでしょうね。 二人には余計な負担をかけてしまって申し訳ないとは思うけれど。 まったく相変わらず自分の意にそぐわない事は許せない『暴帝』気質よね。 少しは周りで振り回されるものの気持ちを考えて欲しいものだわ。 まあ、あの娘の気持ちが嬉しくない、といったら嘘だけれど…… 今年が高校生としての私の最後のクリスマスになるのだし。 だからそんな親友の気持ちを今は胸の奥に大切にしまっておいた。 次の機会には取り出してそのお返しができるようにね。 そんな愚にも付かないことを考えているうちに、我が家が見えてきていた。 宵闇の中でも街灯や玄関の灯り、窓から漏れ出る光で浮かび上がる様子に やはり心が落ち着く気がしてしまう。 お父さんの転職先の社宅に入れる事になって 千葉からここ松戸に引っ越してもう2年とちょっとが経っていた。 暮らしていた時間は引越す前の懐かしい平屋の家とは比べ物にならないけれど。 今では毎日暮らしている場所に相応の愛着も湧いている。 引っ越した当初は悲しい思い出ばかりが刻みこまれた場所だった。 もしも引っ越すことがなければ……そんな風に考えてしまう時もあったわ。 それでも、私の家族の待っている掛け替えのない場所だもの、ね。 さあ早いところ、日向たちに食材を渡してあげないと。 日向は怒るかもしれないけれど、少しは料理も手伝わせて頂戴ね。 私はゴールの見えたマラソンランナーのラストスパートよろしく 逸る気持ちのままに足を速めると、我が家への距離を一気に詰めた。 そして驚きに目を見開く。 深みを増した夕闇を、街灯の光がスポットライトのように照らしている。 そこに彼が立っていた。 「ふっ、よくぞ辿り着いたものだな、『夜魔の女王』よ」 そして聞き覚えのある台詞をあなたのいつものドヤ顔で口にしていた。 「……それは私の台詞でしょう?私の許可なく勝手に真似しないで頂戴。 そも『闇の眷属』の資格のなくなった今のあなたでは 全然様になんてなっていないわよ?」 「ちぇっ、せっかく全力で決めたってのになぁ」 私達は顔を見合わせて幽かに笑いあう。 もっとも私は心の中の動揺を覆い隠すのに必死だった。 まるであの時の再現。待つ者と来た者の立場は入れ替わってはいるけれど。 あの時の記憶が脳裏に浮かんだ私は、震えだす手を抑えつけるように 愛用の買い物カバンの持ち手をぎゅっと握り締めていた。 「……それで一体どうしてこんなところにいるのかしら、先輩。 あなたは今、オタクっ娘のクリスマスパーティに 参加しているものだと思っていたけれど」 「ああ、最初はそっちに行ってたんだぜ。そこで桐乃に頼まれたんだよ。 皆からおまえへのプレゼントを今すぐまとめて渡してこいってさ」 先輩は手にしていた大きな紙袋を抱えあげて私に見せた。 皆の、ということは今日のパーティに参加しているはずの 桐乃、沙織、ユウ、秋美、そして先輩の5人分も入っているのかしら。 「……別に明日だって桐乃や秋美とは学校で顔を合わせるのだから そこで渡してくれてもいいでしょうに。それにあなたもそんな事の ためだけにわざわざパーティを抜け出して松戸まで来たと言うの? まったく相も変わらず度を越したシスコンよね」 自分でも予想外に辛辣な物言いになってしまっていた。 想像もしていなかった事の動揺と、2年前の思い出が溢れて来た事と。 なにより私のためにここまで配慮してくれた皆の気持ちを 正面きって受け止めるなんて。そんなの嬉しすぎて堪らないじゃない…… まったく、あなた達兄妹には本当に振り回されてばかりよね。 こんな日に限ってこんなサプライズを用意してくれているのだから。 「そう言うなって。確かに桐乃に言われたのがきっかけだけど 他の皆も、それに俺だってそうしてやりたいって思ったからな。 ほら、まずは皆からのプレゼント受け取ってくれよ」 でも先輩はそんな私の物言いを全く気にするでもなく私の方に歩いてきた。 それで私も、ずっとその場に立ち尽くしていた事に漸く思い至って 慌ててこちらからも先輩の方に近づいていく。 「っと、すまん、そういや買い物にいってたんだっけか。 じゃあ俺が家まで一緒に持っていくよ」 「ええ、そうしてもらえると助かるわ……でも、それなら 始めから私の家で待っていてくれればよかったのではなくて?」 「実際、最初はそこの黒猫の家を訪ねたんだけどな? そしたら日向ちゃんからお前が買い物に出てるって言われてさ。 もうすぐ帰って来る頃だって事だから、ここで待つことにしたんだ」 「あの娘ったら……そんなことなら家に上がって貰うべきでしょうに」 中学生になって料理や家事も積極的に身につけてきている日向だけど 遥々の来客への配慮や対応はまだまだということかしらね。 「いやいや、日向ちゃんからはちゃんと上がってお茶でも飲んで待ってて って言われたよ。でも、お前にプレゼントを渡すなら、こんな 予想外のシチュエーションで盛り上げた方がいいかなって思ってな」 くっ、先輩がまさか心理的演出まで考えていたとは侮っていたわ。 狙い通りにすっかり不意を突かれてしまった私は その分も余計に皆のプレゼントを嬉しく感じているのだから。 ……本当、あの時と同じでいて正反対ね。 ひょっとするとこれはあなたの仕返しだったのかもしれない。 思わずそんな風にも考えてしまうほどに。 「それに今日はお前のところに長居するわけにもいかないだろ?」 「そう……そうね。確かに何のために私が パーティを欠席したか判らなくなってしまうものね」 「おう、ま、黒猫の受験が無事に終わったらさ。 また桐乃たちと一緒に遊びに来てゆっくりさせてもらうぜ」 どうやら久しぶりに先輩と二人きりで話す機会は ほんの僅かの時間しか許されていないらしい。 互いに歩み寄った私達は、改めて我が家に向けて歩き出した。 まるであの夏の日のように二人並んで寄り添って。 もっとも、その時と比べるとその足取りは不自然なまでに ゆっくりとしたものだったけれども。 「そうね。志望校に合格出来たらきっとそんな機会も増えるでしょうね」 「そういや、黒猫は結局どこを受ける事にしたんだ? この前の模試はいい結果だったってさっき沙織から聞いちゃいたが」 「そういえばあなたには私の志望校を伝えていなかったかしら?」 ふてぶてしくよく言ったものだと自分でも思う。 先輩に今までそれを話していなかったのは 合格する確信がいまひとつ持てなかった事もあるけれど。 私は平静を装いつつも最大限の気力を振り絞って言葉を続けた。 「私の第一志望は、先輩と同じところ、よ」 なによりもそれをあなたに伝えることが恥かしかったのだから。 でもせっかく私のためにプレゼントを運んできてくれた サンタさんには、このくらいのお礼をしないといけないわよね。 先輩は驚いたように私の顔をじっと見返していた。 私はそれに気付かないふりをしてずっと正面を見据えていた。 それでも私の心臓は早鐘を打ち始め、その勢いに押し出された血液が 一気に顔中に昇ってくるのがわかる。幸い我が守護たる闇の帳が 私の顔を覆い包んでそれと気が付かせないでくれていると思うけれど。 先輩は口を開きかけては、また閉じて。 私に応えるべき言葉を探っているようだった。 「……そっか、それなら春からはまた本当の先輩と後輩同士、だな」 「……ええ、その時にはまた宜しく、ね、先輩」 結局、先輩は優しい声でそれだけを言うものだから。 あなたの反応を散々に身構えて待っていた私も、素直にそう応えた。 きっと今。 あなたも私と同じように弁天高での出来事を思い返していたのでしょうね。 告げられなかった台詞にはどんな想いを隠していたのかしら。 あの頃に戻ることは決して適わないけれど。 でもまた同じように、いえそれ以上にだって 掛け替えのない日々をあなたともう一度過ごす事はできる。 そんな予感をあなたも抱いてくれていると嬉しいのだけれど、ね。 「もっとも無事に合格できれば、の話だけれどもね」 「確かに俺が言うのもなんだがうちの入試、大変だろ?」 「そうね。だけど私が希望する、国立で実家から通えて工学部がある所、 となると必然的に候補が限られてしまうもの。だからこそ、こうして 我が『創世衝動』すら封印して、オタクっ娘のイベントも見送って 試験勉強に打ち込んでいるのだし」 「お、黒猫は工学部なんだな。さすがに学部まで一緒ってわけじゃないか」 「別にあなたがいるからと進路を選んだわけではないから当然でしょう?」 「そりゃそうだろうけどよ」 まるで弁天高に入学して初めて顔を合わせた時のようなやり取りね。 それを思い出して少し笑ってしまった私だけど 見れば先輩も私と同じように口元が綻んでいた。 もっともあの頃とは色々なものが変わってしまってはいる。 あなたと同じ学校に通える事に胸躍らせていればよかった頃とはね。 でも考えてみれば結局は自分の目標を目指す事に変わりはないのかしら。 自分の理想を掴むために。あなたへの想いと向き合えるその日まで。 「でも黒猫が後輩になるなら、大学ももっと楽しくなりそうだ。 またゲーム系のサークルとか入るのか?不安ならまたいつでも協力するぜ」 「あの頃の私と一緒にしないで頂戴。確かに大学でもゲーム制作の 出来るサークルに入るつもりだけど。今の高校では何の問題もなく 入部出来たのだからあなたのお節介など今更不要よ?」 「そういやそうだな。まあ本格的なゲーム制作となると 俺がいたって確かに全然役には立てないしなぁ」 「そ、そんな事はないわ。能力の有無なんて結局取りうる手段や 表現できる質の違いでしかないもの。あなたが本当に純粋に ゲームを作りたい、というならそんなことは些細なことよ?」 それも転校先のコン部での活動を通して学んできた事でもある。 ともすれば技法に走りがちな私の考えを改めさせてくれたものね。 それにこういう話題になると、先輩は口では諦めてる風を装いながらも その実、内心では劣等感に苛まれているってわかっている。 そんなあなたの悪癖も改められればと常々考えている事もあって 思わず反論にも力が入ってしまった。 「そう言われると確かにやってみたい気持ちもあるけどな。 でも、ま、しばらくは俺もバイトで手一杯だからなぁ。 骨折で夏場は全然稼げなかったから気合入れないと間に合わないしよ」 「そういえばそうだったわね。何か欲しいものでもあるのかしら?」 先輩は大学に入学しても特にサークルには入らずに 空いた時間には定期的なバイトをこなしていたくらいだった。 1年のときには運転免許を取るために教習所に行ったり 免許を取った後も練習に励んだりもしていたようだけれど。 それにしては桐乃のようにお金を使うような趣味をしているわけでもないから バイトに一体どんな目的があるのかずっと疑問に思ってもいたわ。 ひょっとして自分の車でも買いたいのかしらね? 前に皆でいったドライブはお父さんの車を借りたと言ってたから。 私は今までそんな風に考えていたのだけれども。 「おう、来年の春から家を出て一人暮らしを始めようと思ってるからな」 でも、まるで私が想像もしていなかった事を 先輩はいつものドヤ顔で高らかに宣言していた。 「え、ええ!?で、でもいいの、あなたはそれで」 『運命の記述』にすら想定外だったその理由に驚かされた私は 真っ先に思い浮かんだ疑問をそのまま口に出してしまった。 でも落ち着いて考えてみれば、いったい何に関して聞きたいのか これでは分らない台詞よね。 「ああ、元々は親父の大学進学の時の条件だったんだけどな。 在学中に実家を離れて自活出来るようになれってさ。 まあ、俺も社会人になる前にはやっておきたいって思ってたし」 案の定、私の一番聞きたかった事に関しては答えはなかった。 「そのための資金集めだったというわけね。でも大丈夫なの? 受験前に一人暮らしをした時には生活力の無さを心配されて 結局あやせがお目付け役についていたくらいだったあなたが」 「その辺を本気でなんとかしなきゃな、ってずっと考えちゃいたんだよ。 平穏な人生ってのが俺の理想だけど、そのためには 自分のことは最低限自分でやれるようにしとかないと」 「相変わらず現役大学生の志としては情けない事この上なくて あなたの将来が本気で心配になってくるけれど。 まあ、その心がけを持てただけでも殊勝なことよね」 「人の一大決心を情けないとかばっさり切り捨てないでくれませんかねぇ! ……まあ確かに昔から家事をしながらあんなにも趣味にも打ち込んでいる お前にはそういう資格はあるだろうけどな。だから、さ」 先輩は歩みを止めて私の方に向き直っていた。 その顔があなたがたまに見せるとても真剣なものに見えたから。 私も立ち止まると先輩の方にしっかり身体を向ける。 あなたの決意を私も全力で受け止められるように。 「お前や桐乃のように目標に真っ直ぐに全力で向っていく 凄いやつらと同じ様な事は俺にはやっぱりできないだろうけど。 せめてその邪魔にはならないようにしないといけないじゃないか」 先輩のその言い草は傍から聞けば やっぱり卑屈すぎて嘆かわしい限りだと思うけれど。 その言葉の持つ意味に、そして先輩が言外に秘めた意味に 考えが及んだ私は暫し言葉を失ってしまった。 「……成程、つまりは桐乃のヒモになっても、せめて家事くらいは 出来るようになるから一緒にいてくれ、ということなのかしら? はっ!?ま、まさかあなた……一人暮らしをする 本当の理由は家族の目から離れたところで桐乃と……」 漸く話せるぐらいには心を宥めた私は 先輩の決意をわざと曲解していつものように揶揄う。 だって、そうでもしないと今の私の気持ちが 心の堰から溢れ出すのを抑えることができなかったでしょうから。 まったく今日は漸く私の志望校を伝えることで これからの私の覚悟と目標をあなたに示すことができたというのに。 それ以上にあなたの覚悟と決意を思い知らされることになるなんて。 我が『神眼』を持ってしても見通すことなどできなかったわ。 「そんなことしねーよ!どんだけ信用ないんだよ、俺は! ……まあ、あいつは確かに大切な妹で ずっと一緒にいるってあの時約束したけどな。 それはきっと文字通りの意味じゃないって桐乃だって判ってる。 なにせ俺の一人暮らしの件にも協力的なくらいだしな」 思いもかけず最初の疑問の答えが返って来た。 そう、桐乃も全て承知のことなのね。 それにしてもあなたはずっと実家に残るものだと思っていたわ。 少なくとも桐乃が家を出るまでは、と踏んでいたのだけれども。 私の予想を超えてあなた達も前に進んでいく。 それでこそ我が永遠の宿敵たる『熾天使』と永久の伴侶である『漆黒の獣』。 私も気を緩めていたら、あなた達に置いて行かれてしまいそうね。 急ぎ『真・運命の記述』を更新する必要があるわ。 「まあ、といっても俺がちゃんと一人暮らしできるのか 心底疑わしいから、週に何度かチェックしにいくって息巻いてるけどな」 「ふふっ、それは確かに桐乃が正しいでしょうね? 何の確認もなかったのなら、あなたは絶対に楽な方にと 堕ちていくことになるでしょうから。でもそれは『混沌の増大』。 この世のものが存在する限り避けては通れぬ理でもあるけれど」 「ちぇっ、人が珍しくやる気になってるってのに 身内にまったく信頼されてないってのも泣けてくるよなぁ。 ああ、そういや桐乃がこうも言ってたな」 演技がかった仕草で深々と溜息をついていた先輩は 何かを思い出したように顔をあげ、もう一度私の顔を真っ直ぐに見詰めた。 「俺の監視は自分だけじゃ手が回わらないだろうから。 瑠璃にも頼んどくからしっかりやんなさいよ、ってな」 ……そんなところまで気を回さなくてもいいでしょうに、あの娘は。 まさか2年前には私に任せられなかったことへのお詫び、 というわけではないでしょうね? 「そんなわけで俺からもよろしく頼むぜ、『後輩』」 「ええ、約束するわ、『先輩』。精々桐乃の期待にも応えられるよう 厳しくあなたを指導してあげるから覚悟しておいて頂戴」 そんな理由でもなければ、今の私があなたの部屋を 一人で尋ねるなんてわけにはいかないのでしょうしね。 それにしてもまさか来年からはそんな生活が待っているなんて。 散らかし放題になってる部屋を叱りつけながら一緒に片付けて。 出来合いの惣菜や冷凍食品に偏った料理を実演しながら正して。 洗濯も掃除も繕い物も。きっと家事の基礎なんて 何も出来ていないあなたにそれを一つ一つ指南していくのは。 とても楽しくて嬉しくて心躍る事なのでしょうね。 顔を見合わせたまま私達はもう一度笑いあう。 きっとあなたも私と同じ思いを抱いてくれている。 桐乃に向けるのに負けないくらいに優しいあなたの笑顔が 確かにそう実感をさせてくれたのだから。 再び歩き出した私達は程なく我が家にたどり着いた。 高々数十メートルの距離をいつもの何倍もの時間をかけてしまったけれど。 先の言葉通りに先輩は私へのプレゼントを手渡すと 別れの言葉と共に踵を返してオタクっ娘のパーティへと戻っていった。 私は先輩の後姿が宵闇に溶け行くまで玄関先で見送った。 刹那の邂逅に名残惜しい気持ちがするのも確かだけれども。 このクリスマスにこれ以上ない贈り物を私は受け取ることができたから。 皆からのこの暖かな気持ちと。 あなたと交わした未来への『盟約』と。 私は先輩から受け取った紙袋を今一度胸元で抱きしめる。 そして頭を振ってそんな感傷を追い払うと我が家に戻った。 私が今すべきことを成す為にね。 私の目指す『真の理想の世界』へと至るために 今まさに大きな壁として立ち塞がる大学受験だけれども。 また一つそれを乗り越えなければならない理由が増えたものね。 それに抗しうる武器もまた、この手に授けられて。 だから私は必ずそれを成し遂げて見せるわ。 そして障壁を踏破した先に新しい未来を積み重ねていこう。 昔日の幻影など明けの光で掻き消して二度と惑わされる事がないように。 私は胸の内で改めてそう決意すると、その力を与えてくれた 感謝を込めて、この聖夜に相応しい言葉を贈っていた。 どうか良きクリスマスを、私の大切な人たち。